卓話


2013年8月7日(水)


早稲田大学のグローバル戦略−グローバルリーダーの育成−

早稲田大学 教務部長
理工学術院 教授 大野睛技


 私は現在,理工学術院の教授をしていますが,教務部長ということもあって,大学全体の将来計画およびその実践等を見据える役職を担っています。その関係から今日は「早稲田大学のグローバル戦略」,つまり一番重視しているテーマの一端を,時間の許す限りご紹介させていただけたらと思っています。

 早稲田大学は昨年2012年に創立130周年を迎え,これを機に「Waseda Vision 150」という中長期計画を11月に作成して発表しました。これは20年後の150周年,ちょうど今生まれた子どもたちが大学生になる2032年の時点で,早稲田はどんな大学であるべきかという視点に立ち,これを創立者である大隈重信の理念に照らし合わせて方向性を定めたものです。

 さてグローバルと申しましても様々な側面がございますが,私どもの計画では「アジアのリーディングユニバーシティとして世界に貢献し続ける大学」であることを目標に,まず四つの基軸を掲げました。/祐嵶蓮ζ胸[呂鯣えたグローバルリーダーの育成,¬ね茲鬟ぅ離戞璽箸垢詁帆賄研究の推進,9四Аγ楼茲箸寮験兇砲錣燭誅携の強化,た焚修垢訛膤悗了伝箸澆料論漾宗修海譴蕕魎霄瓦箸靴董い気蕕13の核心戦略,76の関連プロジェクトを策定し,計画はすでに着々と実行に移しています。

 ここでキーアイテムとなるのが,「グローバリゼーション」と「イノベーション」です。こうした言葉は世間一般でも広く使われていますが,やはり今日の社会ではこれを抜きにして語れない部分があり,早稲田大学でもこの最優先課題にしっかり取り組んでいこうとしているわけです。

 ところで四つの基軸について具体的に何をしているかと申しますと,当然,大学ですから教育,研究,あるいは社会との連携などというようなことになります。全部ご説明するだけの時間もございませんので,ここでは特に,坊任欧泙靴真祐嵶呂汎胸[呂鯣えた「グローバルリーダーの育成」ということについて,我々の取り組みをご紹介させていただきたいと思います。

 普段,「グローバル人材」の育成とよくいわれていますが,私どもとしてはあくまで「グローバルリーダー」を育てていくこと,これを重要なポイントとしています。つまり一人ひとりがグローバルであることは大事ですが,大小どんな組織であれ,そのリーダーとして組織全体を牽引していく,そんな人材を輩出したいと考えています。したがって早稲田大学が考えるグローバルリーダーとは,世界のどこに活躍の場を求めたとしても,グローバルな視点で組織をまとめつつ,課題解決を図ることができる人材ということになります。

 先ほども言いました早稲田大学の創立者である大隈重信は,約100年前に教旨つまり大学の理念を定めた際,「人は知識だけを身につけると利己的になり犠牲的精神が衰えてくるので,人格の養成が大学教育の第一である」ということを述べています。こうした創立者の理念も踏まえ,私どもが求めるグローバルリーダーには叡智,志,実行力の三つの能力が不可欠だと考えています。

 「叡智」には広い国際的教養や異文化理解力,高い専門性と分析力・考察力,言語・コミュニケーション能力,自律的・批判的思考能力などを含みますが,そうした頭脳に関する能力だけでは不十分だといえます。そこで私たちは「志」,すなわち自己犠牲を厭わず世界の人々に貢献する心を養成することも,重要な能力であると捉えています。また課題解決策を考案できて志があったとしても,それを「実行」しなければ意味がありません。大学はともするとアカデミックなアイディアばかりが強調されますが,物事を成し遂げる能力も大切です。こうしたことから叡智,志,実行力,この三つの要素が備わって,初めてグローバルリーダーとしての能力が発揮できると考えているのです。

 では,そうした人材に必要な三つの能力を,早稲田大学はどうやって涵養しようとしているのか――それは学生の時に,理論と実践の学びのスパイラルを作り上げるような仕組みによって成し遂げられると考えています。例えば食糧問題や人口問題,エネルギー問題などは,一つの学問領域や一つの国や地域に閉じこもって解決できるといった種類の課題ではありません。いわゆるグローバルイシューと言われる問題の影響が全世界の様々な分野に及び,文系理系を超えた多様な学問領域の知恵が結集されて初めて解決できるような問題であるはずです。

 そしてこれらを解決するには,まず教室で理論的な勉強やディスカッションを重ねたうえで,実際に国内外のフィールドやボランティア活動に参加してみる。そうすることで,学んだ知識がいかに現実では限界があるかを体験によって気付き,あるいは現場が抱える問題点を新たに発見することになります。そこでまたキャンパスに戻り,課題解決に足りなかった技法も含めた理論的な勉学を積み重ね,それをさらなる強みとして再び現場に赴き,実際の問題に対する解決をより高度なものにする。こうした理論と実践の積み重ねによって,叡智,志,実行力を鍛え上げようとしているわけです。

 繰り返しますがグローバルな視野を得るためには,グローバルな体験が欠かせません。そこで学生は卒業するまでに,1度は留学することを到達目標として掲げています。ちなみに早稲田大学には,留学生の交流という点で非常に長い歴史があります。創立から約20年後の1905年,清国つまり現在の中国からの清国留学生部を設置し,それも個人レベルではなく組織としての受け入れを開始しています。こうしたDNAを引き継ぎ,現在では日本最大数の外国人留学生約4,500 名が在籍し,逆に早稲田大学からは約2,500名の学生が毎年,世界各地で1年以内の留学体験をしています。

 また海外からの留学生はいずれ10,000名に引き上げる計画ですが,この数は全学生の約20%に相当するものです。もちろんその趣旨は世界から優秀な学生を招いて育成し,早稲田大学が考えるところの世界に貢献するグローバル人材として,世界各地で活躍してもらうことを意図しています。しかしそれだけでなく,これだけ多くの留学生が早稲田のキャンパスに集うということは,早稲田大学が一つのグローバル空間を実現していることに他なりません。

 こうした取り組みは日本人をはじめとする学生が,早稲田のキャンパスに居ながらにして,グローバルな世界を日々体現することにつながります。そうなるとグローバルな世界に対する違和感や距離感はなくなり,留学に対する考え方の大きな障壁も取り払われることになるでしょう。これは最近の一例ですが,アフリカのタンザニアから一人の女子学生が留学していました。彼女とのコミュニケーションで親密になった日本人の女子学生が,興味を膨らませ「是非あなたの国へ行ってみたい」と,実際に1年間のタンザニア留学に旅立ちました。こうしたケースも,私どものグローバル人材育成における一つの成果であると思っています。

 ではここで具体的なカリキュラムに話を移したいと思います。まずグローバルな教育システムの土台作りとして,クオーター(四学期)制の採用をはじめ,授業科目のコースナンバリングやルーブリックによる成績評価などに取組んでいます。中でも特にクオーター制は,少数の授業を短期間で集中的に受講することにより,教育効果をより一層高めています。と同時に,世界各地で異なっているアカデミックカレンダーにも対応できるため,留学生の迎え入れ,あるいは留学に出かける学生にとっても大変便利な学期制として,これからの効果が期待されています。

 最近はとかく内向きといわれる若者を,一人でも多く世界に目を見開かせたい。そして様々なグローバル体験を通して,彼らが生きる時代はワクワクとした夢があふれる活躍の場が多様に用意されていることを気付かせるのが,我々の真の役割だと考えています。さらには彼らがその場において,リーダーとしての十分な能力が備わっているのだと自信を持って社会に羽ばたけるよう,人材養成の成果を挙げるべく教育イノベーションに取組んでいきたいと思っております。

 今日ここでご紹介したかった私どもの取り組みはまだまだありまして,例えば全学共通の基盤教育としての「大学版:読み書きソロバン」,論理的な思考力を鍛える「1万人の数学」,アカデミックなレポートや論文の作成を支援する「学術的文章の作成」,学生4人にネイティブの先生1名が付く英会話特訓科目「チュートリアル・イングリッシュ」など,多種多様なカリキュラムを用意しています。

 残念ながら時間も限られていますので,具体的な内容はまたの機会とし,今日はこれくらいにさせていただきます。いずれにしても早稲田大学が他大学に先駆け,グローバルリーダーの育成に取り組んでいる一端をご理解いただけたら幸いに存じます。